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仕事のこと、ビジネスに役立つこと、海外事情

餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?【書評要約】

 

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 この会計や経営の数字に関する本が発売されたのは2006年とかなり前で、初めて読んだのは僕がまだ大学生のころだった。今ではマンガ版が出されるなど大ヒットした書籍だ。当時はまだ経営や会計のことなど何も知らず、会社の儲けの仕組みを理解できていなかった。しかし本書で出てくる仮想の会社と登場人物のストーリーを通して、会計の仕組み、儲けの仕組みを分かりやすく理解できた。

 本書のストーリーは、会社を経営していた父が突然亡くなり、デザイナーの仕事から会社経営を託された由紀が会社を立て直していくストーリーである。経営の事など何も知らなかった彼女は知り合いのコンサルタント・安曇に毎月会計に関するアドバイスを受ける。アドバイスの内容を毎月実行に移し、様々な会社の問題を解決していく。

 今回本書を読み返したのは、会社の若い社員に会社会計の基礎やコスト感覚などを勉強してもらおうと、この本を推薦したからである。経営に携わるようになった今読んでみても、会計や儲けるために重要な事について「わかりやすく」まとめられていると感じた。本書から学ぶべき重要な点を少しまとめてみる。

 

財務諸表の基本とその性質を理解する

 会社経営の指標となる財務諸表。「貸借対照表(バランスシート:B/S)」「損益計算書(P/L)」 「キャッシュフロー計算書(中小企業の場合は資金繰り表の場合もある)」の3つの書類からなる。既に経営に携わっている人であれば改めて勉強する内容ではないが、本書では経営者になったばかりの由紀が一番最初に学ぶべき内容として登場する。

 一般的に言われることだが、「B/S」は会社の資産と負債を左右にバランスさせて表記してあり、資産のほうがの資本の運用形態(お金の使い道)、負債のほうがその現金をどのように調達したかを示している。「損益計算書」とは経営の成績表と呼ばれ、一年間にどれだけの利益を生み出すことができたかを計算するものである。大切なことは、「利益」は差額(引き算)の概念であり、売上高そのものを見ていても「利益」は出てこないということだ。「営業利益」「経常利益」など色々な段階の「利益」が存在するが、全て「売上高」から順々に「費用」を引き算して算出される。そして最後に残る「当期純利益」こそが、会社が真に生み出したい利益である。「キャッシュフロー計算書」は各経営活動における現金の増減を表す。大きく分けて営業活動・投資活動・財務活動による現金の出入りを表し、それぞれの項目内でもさらに細かく現金の増減を確認することができる。

 

「貸借対照表B/S」をスリム化し、収益性を上げる

 由紀が託された会社は赤字を垂れ流す借金企業だったため、銀行の債務担当者に「リストラ」を断行するよう迫られる。従業員を切りたくない由紀は安曇に相談すると、人員整理だけが「リストラ」ではないと教わる。会社のムダをなくすことがリストラの真意であるため、まずは「B/S」で会社の資産に無駄がないかを確認することを教えるのだった。使用していない建物、機械または、動いていない仕掛品や在庫品、これらを処分して現金に換えることがまず行うべきリストラなのだ。こうすることで、利益を生むことに貢献していない余分な資産を処分し、スリムな企業体質で収益性をあげるようにする。また処分した際の現金は、銀行への返済に回すことができたのだった。

 

キャッシュフローで大切なことは「少ない現金を高速で回す」

 「貸借対照表」のアドバイスで不要な資産を処分しリストラを行った結果、由紀の会社は固定費を抑え、儲けを出しやすい企業体質になった。そして由紀は単月の決算で黒字を出すことに成功した。しかし、経理からは支払い現金が不足しているため、借入をしたいと言われる。儲けがでているのになぜ現金が不足するのか?理由がわからない由紀に安曇は「キャッシュフロー」と「儲け」は違うことのレクチャーをする。ここで引き合いに出されたのがお寿司屋さんのネタである。

 

大トロは儲からないがコハダは儲かる 

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  安曇は由紀に「大トロは儲かるか」という質問をする。単価の高い大トロは一見儲かりそうだ。しかし安曇は「コハダは儲かるが、大トロは儲からない」という。ここで注目しなくてはならないことは、資金の回転速度と滞留量である。寿司屋のネタに限らず、会社の在庫品や仕掛品は「現金が姿を変えたもの」である。寿司屋では、大トロは一日に何貫も出るわけではないので、月に一回仕入れて一か月かけて売り切る。一方コハダは安いため一日に大量に出る。よって毎日売れるだけのコハダを仕入れる。すると下の図のような資金の回転速度と滞留量となる。

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 つまり、少ないキャッシュであっても「高速(高頻度)で」回転させることで多くの現金を獲得することができる。反対に利幅のとれる単価であっても回転率が悪いとその分キャッシュが寝てしまい、現金を稼ぐことができない。由紀の会社は、利益の出るコスト構造となったが、仕入れの数が増加してしまい、その分現金が寝てしまっていたために、支払いの為の資金繰りが厳しくなっていたのだ。 

 この「回転率」というポイントは弊社のようなメーカーにとって非常に重要だ。例えば商品の単価を決める時に、その商品がどれくらい回転するか(どれくらいの頻度で出るか)を考慮しなくてはならない。回転の遅い(弊社では足の遅いと呼んでいる)商材は少し単価を上げておかないと、現金に換わって(販売されて)キャッシュを生んだとしても現金が長く滞在していることを鑑みると割に合わない。反対に良く回転する商材は少し単価を下げてでも高回転を維持できるよう努めている。

 

商品の原価を下げるためにも製造の「スピード」が大切 

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 多くのキャッシュフローを生むためには、商品の回転が速くないといけない。現金を寝かせることなく素早く回収し、次の現金を生むため再投入することが大切だ。この「スピード」の重要性は、キャッシュフローの観点のみではない。商品のコスト、つまり原価にとっても重要なポイントだ。

 由紀の会社の工場では、製品を作るための材料や仕掛品として製造途中の製品が山積みにされていた。大量発注で安く材料を仕入れてしまい、必要以上の材料が余っている。また、次工程の製造キャパを考えず、前工程で大量に製造してしまい、結局工程前で留ってしまっている仕掛品が多くあったのだ。「作業費は固定費で一定なので、各工程で作れば作るほど一枚当たりの製造コストは安くなるはず」という考えは経営的には間違っていると安曇は言う。

 

製造現場の人間が最も知っておくべき「管理費増大」の問題 

 自分の会社ですらなかなか理想の製造リードタイムで製造ができているわけではないが、弊社のような中小企業製造業であれば、なかなかシステムが整っておらず、場当たり的に受注した製品を計画無く製造するといった状況ではないだろうか。ましてやSKU数が多いメーカーは特に、各工程の納期の管理は難しい問題だ。本書の由紀の会社のように、仕掛品として長く工程で滞在してしまっている製品も存在する。

 これが経営的に間違っている理由は、滞在している間にも毎日、毎月、管理費がかかっているからだ。本書中で安曇はこれを「雨のなかで傘を持っていない場合に、歩く時と走る時で濡れる量が違う」と表現している。つまり、仕掛品として長く滞在している製品には管理費の雨が降り注いているということだ。仕掛品として留っている間にも毎日管理費が少しずつ加算されているのだ。素早く工程を通り過ぎれば管理費の雨に濡れすぎることはない。この意識を持てている現場の作業員はなかなかいない。しかし製造コスト、つまり原価を抑えるためには、製品は風のごとく工場を通過しなくてはならない。儲かる会社の工場は殺風景だという。滞在している仕掛品がないからだ。

 

ビジネスモデルの損益点を知る

 本書では餃子屋と高級フレンチのビジネスモデルの違いを引き合いに出して、損益分岐点を意識することを紹介している。損益分岐点とは利益が出始める販売数量や売上高を意味する。基本的な損益分岐点は以下の図のように示される。

 

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 本書の例では、餃子屋は単価が低い「薄利多売」のビジネスモデルであり、店舗や皿などの備品、また店員などの人件費といった「固定費」をなるべく掛けないようにして、利益がでる売上高を低く設定している。

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 一方高級フレンチでは、お店の内装や店員などのサービスなどにお金をかけており、固定費は高いが、単価も高く設定されているため粗利も多い。

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 つまり両者のビジネスモデルや、損益分岐点が全く異なるため一概にどちらが儲かるということは言えない。しかし両者はそれぞれ儲けを出すために重視しなくてはならない点が異なるため、それをしっかり実行できるかが鍵となる。餃子屋は回転率が命なので、とにかく回転率を高めることを意識する。一方フレンチは満足度が命なので、高いお金を支払っても満足してもらえるサービスを意識する。両者全く異なる点だが、儲かるためのポイントをそれぞれ押さえることが重要なのだ。

 しかしこれはなにも「ビジネスモデル」や「事業内容」といった大きな枠組みだけでの話ではない。例えば弊社のような製造業であれば、新商品として開発するアイテムの値決めの際に損益点を考えることは非常に重要だ。新商品を開発するためには多かれ少なかれ、投資をしなくてはならない。直接的なコストとしては金型や試作費、開発に携わる人の人件費などが必要となってくる。これらを損益分岐点の表の固定費として考えると、新商品がいくつ売れれば最低限、投資額は回収できるかを判断することができる。これを期間内に回収するためにはいくつ売るべきか、といった販売目標となるのだ。損失を出さず、儲けを出すためにはこの損益分岐点の考え方がとても重要な為、どの立場の社会人にも必須の内容と言える。

 

 今回は読み返して大切だと思った点をまとめてみた。本書では全てのポイントがストーリーを絡めて説明されており、想像しやすく、理解しやすい。経営者のみならず、製造現場の人にもおススメしたい良書だ。