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仕事のこと、ビジネスに役立つこと、海外事情

新・観光立国論 デービット・アトキンソン【要約書評】

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 人口減少により経済が衰退していく日本は、観光立国となり成長を維持していくべきだ。そう唱えるのは元ゴールドマン・サックスのアナリストで現在、国宝・重要文化財の補修を手掛ける老舗企業、小西美術工藝社の取締役社長であるイギリス人、デービット・アトキンソン氏である。よくテレビで見かけるし、著書はランキングでも人気なので知っている人も多いだろう。本書を手に取ったきっかけは、今地方でも地場の名所を観光地として観光客を呼び込もうとしており、観光戦略が東京や京都などの観光都市だけの課題ではなくなってきていること、その観光業がどのように地域経済を活性化できるのかに興味があったからだ。

 本書を読み進めていくと、優秀な金融アナリストであったデービット氏らしく、数字に裏付けられた考察と分析により主張がなされており、とても説得力がある。テレビなどのマスメディアで連日取り上げられる「訪日観光客の増加」や「日本ってこんなにすごい国」といったバイアスのかかった報道ではなく、他国としっかり比較された数字を見れば、事実は、日本の観光業は世界でも遅れていることに気付かされる。またイギリス人だからこそ客観的に日本を分析でき、世界基準と比べて日本の観光業のサービスはどうかや、観光戦略はどうかということ論じられていて勉強になった。重要な点をまとめてみたい。

 

観光業がGDPを成長させるカラクリ「短期移民」

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先進国のGDPを決めるのは人口

 日本が高度成長期に「技術力」や「勤勉さ」でGDPを世界第2位まで押し上げたと言う人がいるが、実際には1億人を超える人口に因るところが大きい。ドイツの技術力と日本の技術力にはそこまで大きな差は無いと考えられているが、GDPに差があるのは人口に差があるからである。今後人口減少の未来が決まっている日本経済は、成長がしづらい状況にある。

 では人口を増やす為に移民を受け入れてはどうだろうか。減少する人口分だけ、移民受け入れをして労働力を補うというのだ。しかし「移民政策」は日本では受け入れられにくいと考えられる。昨今ヨーロッパなどでの移民によるテロを鑑みれば、日本人が移民受け入れに対して拒否反応を示すことが予想される。反対に外国人側からすれば、日本語の壁や日本の社会システム・慣習に適応できるかどうか、といった点が長期的に日本に定住する為の障壁となる。

 2047年には人口は9900万人になると予想されており、この先30年の間に人口は3000万人減少する。1年で100万人だ。この人口減少と同じだけの移民を入れるとなると、単純に計算すれば、東京では毎年100人に1人が外国人に置き換わっていくということだ。良いか悪いかは別として個人的にもなかなか想像がつかない。

人口を増やす「短期移民」

 デービット氏が考える「短期移民」とは、人口を増やすという効果がありながらも、永久的・長期的に日本に滞在しない人たちを指す。つまり観光客のことである。観光客を経済論・人口論の視点でとらえると、人口を増やし日本で消費をしてくれる短期の移民と見ることができるのだ。観光客は日本に住みつくこともなく、参政権を持たず、仕事も奪わない。ただ日本で消費をしてお金を落としてくれるだけだ。つまりデービット氏の主張は、観光客という「短期移民」を増やして、人口減少を補いGDPを成長させていく、そのために日本は戦略的に観光業に取り組む必要がある、というものである。

 

日本が観光立国するには

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日本の観光業の現状

 ではどのように観光立国するか。まず本書では日本の観光業の現状を分析されている。著者が調べた2013年の統計では、日本の観光業は、観光客数が世界26位の1,036万人、観光客から得た収入は21位の16,865万ドルと世界観光大国と開きがあることがわかる。

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  しかしデービット氏は、現在は国際的な観光大国と差がある日本だが、今後観光立国となりうるポテンシャルを持っていると分析している。なぜなら日本は、デービット氏が考える観光立国となる4つの条件「気候」「自然」「文化」「食事」を満たす世界でも稀な国だからだ。日本がこれまで観光立国できなかったのは、単に観光業に力を入れこず、そのポテンシャルを発揮していないからである。

 

間違った日本のアピールポイント

 日本の観光業が、これまでそのポテンシャルを発揮できてこなかった例は、的外れな日本のアピールに見受けられる。よく日本人が考える日本の良さ・アピールポイントで、「治安の良さ」「交通アクセスが良い」が挙げられるが、これらは外国人観光客にとっては日本を訪れる理由にならない。「マナー・気配りの良さ」も同様で、これらを目的にわざわざ高いお金を払って日本にこないのだ。僕たちがイタリア人のマナーが良いからイタリアへ行こうと思わないのと同じことである。

 本書では「アニメ・マンガ」などのサブカルチャーについても言及している。こうした独自の文化は確かに日本の強みではあるが、これらのサブカルだけでは、GDPを成長させるだけの観光客を呼び込むことはできない。サブカルチャーを目的とする訪日客のパイは限定されているので、2030年までに年間3000万人という目標は達成できないと分析されている。その為に観光業は、こうしたサブカルだけアピールするのではなく、「アニメ」もやる、「神社仏閣」などの文化財もやるといった、複合的な整備が必要だと主張されている。

 ちなみに海外メディアが報じる日本の魅力は、歴史的名所・京都の寺社・伝統体験・食事・自然(スキー、沖縄、富士山)だったそうだ。これはデービット氏が分析する観光立国となる4条件と一致する。やはり、観光業が力を入れなくはならない王道ポイントはこれら4点で、それ以外のポイントのアピールは的外れとなってしまう。

 

「おもてなし」をもっと進化させる

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 今や日本の観光業を語る上で必ず出てくるキーワード「おもてなし」だが、これも外国人観光客へ向けた取り組みとする以上、外国人の価値観に合わせたサービスへと進化させていく必要がある。おもてなし、と聞くと日本人は対価を求めない奉仕の心をイメージするが、観光立国の為の「おもてなし」とは、いかに「お金を落としてもらえるか」を意識した、高品質で外国人の価値観に沿ったサービスである必要があるのだ。

 デービット氏の分析によると、日本のサービス業の「おもてなし」は、既に決まっているサービス内容に関しては素晴らしいが、マニュアルにないリクエストに対しては、融通が利かないという欠点がある。たしかにレストランなどで、コースの内容を一部変えて欲しいとか、ラストオーダーが5分過ぎているけど注文したい、といったリクエストは大体NOと言われることが多い。しかしこうしたリクエストをする外国人観光客は珍しくないので、柔軟に対応する必要がでてくる。

 欧米人にとってのサービスとは、いかにお客のニーズに応えるかということで、マニュアルを問題なく完遂することではない。例えば欧米では、レストランでお客に手を上げさせて、ウェイターを呼ぶことは良いサービスとは考えられていない。常にお客に気を配っていて、呼ぼうかなとした瞬間に既に寄ってくるのが最高のサービスだと考えられている。先ほどのコース内容の変更なども、決して否定をせず、追加料金○○で対応可能です、となんとかお客の要望に応えようとするのである。欧米のサービスが全て正しいというわけではないが、お金を落としてもらうためには、観光客ターゲットである外国人の価値観に寄り添った「おもてなし」が重要だということだ。

 

マーケティングの重要性

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 おもてなしを進化させるという点でも同様だったが、観光立国するには「客」である外国人たちの声に真摯に耳を傾けることが重要である。つまり、外国人が何を考えているのか、何を求めているのかを聞き出し、そのニーズに合った観光施策を打って日本に誘導する、といったマーケティングが重要なのだ。

 まずひとくくりで考えられている「外国人観光客」を地域別にセグメンテーションする。国別で日本に求めているもの、日本を訪れる動機が異なるため、どの国からの観光客がどのような目的をもっているかを把握する必要がある。ここで重要なのは「収入」視点でのセグメンテーションだ。デービット氏の調べでは、単純な観光目的の外国人客は欧米やオーストラリアからの観光客が1日に使うお金が最も多く、アジア諸国からの観光客と比べると経済効果が高い。こうした点から、欧米・オーストラリアからの観光客を日本に呼び込むとこが重要だとわかる。

 しかし2014年の統計では、訪日外国人観光客はアジア諸国からがほとんどである。台湾・韓国・中国からそれぞれ約270万人の観光客が来日しており、5番目にようやくアメリカ人が90万人来日している。このことから日本の観光業は、よりお金を使ってくれる上客の欧米やオーストラリアからの観光客を呼び込む必要があるが、現状は欧米人観光客のニーズに沿った観光戦略が打たれていないということだ。

 

欧米・オーストラリアの観光客が望むものは「文化財」

 本書によると、欧米人・オーストラリア人は「日本文化の体験」や「神社やお寺を訪れる」といったことに高い関心をもつ。よって上客となる欧米・オーストラリア観光客を呼び込む為には、国を挙げてこうした文化財を整備していく必要がある。しかし残念ながら、こうした神社仏閣は修理や整備はおろか、まともに利用されていないのが現状である。また、こうした文化財には展示品や説明が不可欠なのに、その魅力を伝えるための説明がほとんどなされていない。京都のお寺で日本人の若者が、スマホでその文化財の詳しい歴史を調べながら見学しているくらいである。日本人にすら魅力を伝えきれていないのだ。文化財を多く抱える、イギリスやフランスと比べると、文化財の補修などに充てられる予算は桁がひとつ違ってしまっている。よって日本が観光立国するためにまず行うべきことは、文化財へもっと予算を割いて、アピールを上手に行い、上客となり得る観光客を呼び込むべきである。

 

 本書の最後の落とし所で、デービット氏が携わる文化財等を活用しましょう、その為に修繕や拡充に予算を回しましょう、といったところを主張されている点は上手だなと感じた。しかし、あとがきにもあるが、文化財の現場を見ているので本当にまだまだ有効活用されていないと感じていることが大きいのだろう。この点は地方へ観光客を呼び込むための戦略として有利に働くことがあるだろう。確かに交通面では観光客にとって不便さがあるが、地方には古くからの街並みや神社仏閣が残っているところが多い。こうした点をターゲット層の欧米観光客にいかにアピールできるかが大切になってくる。地方は地方らしく、都会にできないことを積極的に観光戦略に取り入れて差別化し、地方の成長に寄与してもらいたいものだ。そのためにも、せっかく英語でコミュニケーションをとれるのだから、何か一助になれればと考えている。