Readin'

Readin'

仕事のこと、ビジネスに役立つこと、海外事情

地方企業発のブランド戦略【北村森氏の講演】

f:id:Gincole:20170108005907j:plain

 地方でのものづくりの環境は変化している。職人の高齢化や技術伝授をする若手不足の為、生産できる量が減ってきているのだ。量を作れない地方のメーカーが行わなくてはならないことは、より付加価値が高く利ザヤを多くとれる「高価格商品」の開発とブランド構築である。そんな折、商品ジャーナリストの北村 森さんのブランドづくりやマーケティングに関する講演を聞く機会があった。北村さんは、日経トレンディ編集長をされ「消費者がお金で買えるものすべて」をターゲットに商品の評価をされてこられた。家や車といった最高単価帯から一つ十数円のお菓子まで、様々なアイテムを評してこられたそうだ。

 講演を聞くと、さすがに幅広い業界の、様々な「ブランド」や「メーカー」について知見がおありだと感じた。講演の内容は、人気を博したブランド数点を紹介し、何が成功の鍵であったのかを彼なりの哲学と交えながら説明された。そのどれも実際に経営者などへの直接訪問やインタビューに裏付けされたもので、北村さんを通して、成功ブランドの経営者のリアルな体験談を聞くことができたと感じた。今回印象に残った点を紹介してみたい。

 

「ブランド」=「価格決定権」と「仕様決定権」

 北村さんの定義では、有名無名問わずブランドとは「価格決定権」と「仕様決定権」の2つの要素を持つものである。この二つを持つことの重要性は、メーカーであれば身にしみてわかるだろう。「値決め」ができることは、つまり利益を出せる価格を設定できるということだ。「仕様」つまりスペックを決定できるということは、お客のニーズを満たす製品を製造できるということだ。そして同時に利益を出せるコスト構造を構築できるということでもある。相反するようだが、製品スペックを高める(つまりお客のニーズを追い求める)ことと、利益をだせるコスト構造を保ち続けることは、トレードオフの関係であり、メーカーは常にこのジレンマと向き合っている。お客のニーズを満たしつつ、売れる価格というのは、唯一ひとつしか存在しないと言われている。高スペックだが価格が高すぎず売れなくてはダメで、反対に受け入れられる価格であっても、利益が出ないコスト構造であっては経営が成り立たない。「値決めは経営」と言われる所以だ。

 価格を決める権利と仕様を決める権利があることは、非常に重要であり、どちらか一方でも無い製造業は基本的に下請けとなってしまう。自社ブランドを構築したいと考えているときは、まずこの2つの権利を持てる商品を開発することが大切だ。

 

消費者が不満にすら思っていないことに目を向ける。

 Dysonの新製品ドライヤー「スーパーソニック」を引き合いに出されてご説明された点は、消費者が既に「諦めていて、もはや不満にすら思っていないこと」に目を向け、問題解決に取り組む重要性をお話頂いた。髪の長い女性は、お風呂あがりのドライに10分以上費やす方がいるそうだ。彼女たちにとってこの長いドライの時間は、解決できない「仕方がないこと」であった。しかしDysonはそうした声なき需要に応えるために、超強力風のドライヤーのスーパーソニックを開発したというわけだ。確かに、「こんなことができればいいな」とすぐに思いつくニーズというのは、誰もが思うことですでに商品として存在していたり、開発段階の場合が多い。今のマーケットはもので溢れかえっている時代だ。こうしたマーケットで売れるためには、消費者が既に「諦めている」ニーズを発見し、その問題解決に取り組む必要がある。

 

地方発のブランドが世界で戦うには

f:id:Gincole:20170108010501j:plain

 最も印象的だったお話は、日本を代表する工業デザイナーの奥山清行さんが山形工房を立ち上げられた時の裏話だ。奥山さんは、イタリアでフェラーリやポルシェなどのデザイナーを務められ、「イタリア人以外で初めてフェラーリをデザインした」として世界的に有名なデザイナーだ。
 奥山さんがイタリアでのデザイナーをされている時に、ある疑問を抱いたという。イタリアでは、地方にある小さな会社であっても、デザインや品質が独特なプロダクトで世界的に認知されていたり、人気があるブランドが存在している。またいわゆる大都市の大企業ではなく、地方の中小企業がそれぞれの地域で産業集積を形成しており、それが世界で戦える価値を生み出している。どうして日本の地方ではこれがないのか。

地方のブランドが世界的になる為の3つのポイント 

 奥山さんは、様々なイタリア地方企業やブランドを調べた結果、このように地方発で世界的なブランドが誕生するには、以下の3つのポイントが必要不可欠だという結論に至った。

  1. 地域にモノづくりの技術がある。
  2. その土地ならではの風土・文化が存在する
  3. 世界に展開するだけのビジネススキルをもつ人がいる。

 この中でも、3. 世界に展開するだけのビジネススキルをもつ人 が最も重要であるのに関わらず日本の地方に最も欠けていると分析された。
 つまり日本の地方にはモノを作る現場と技術があり、さらに製品の差別化に繋がる地方独自の文化がそれぞれ存在している。世界に認められる可能性を持つ、良い製品を作る土壌はある。しかし、それを世界にマーケティングし販売する人材がいないのだ。だが裏を返せば、世界に打って出る人材さえ育成できれば、日本の地方メーカーも世界的なブランドに到達することも不可能ではないということだ。

 これを実証するために奥山さんは出身地の山形県に「山形工房」を立ち上げられた。地元に根付く産業や工芸品のメーカーにデザインを供給し、製造してもらう。そして、奥山さん自らが、世界で戦ってきた経験を生かし、世界展開を行うというものだ。今もなお奥山さんの挑戦は続いている。

 

自社ブランドを広める為に 発信者との良い関係性

f:id:Gincole:20170108011229j:plain

 講演の内容からは少しズレるが、こうしたメディアに通じた人物と良い関係を作っておくことは、メーカーの人間として非常に重要だと感じた。なぜなら彼のように、こうした講演で商品を紹介してくれることがあるし、雑誌・テレビなどのマスメディアにも回りまわって掲載・紹介される可能性があるからだ。僕の会社の商品もテレビなどのメディアで取り上げて頂くことがあるが、それはメディアの人間との良い関係から派生していくことが多い。

 実際、この講演後にある社長さんが名刺交換と称して、北村さんの控え室に入れてもらえるよう取り計らってもらっていた。100名近い参加者がいた中で、直接挨拶しようとした人はその社長さんだけだったが、僕は少し感心してしまった。

 経営者のあるべき姿はこうあるべきだなと思った。特に中小企業には、広報担当者などは存在していないところが多いだろう。経営者がみずからトップ広報として、メディアその他と直接対応する必要がある。これはなかなか他の社員ができる役割ではないし、社長自らが行うことが一番の効果がある。最近ではトランプ次期大統領に直接アピールに行ったソフトバンクの孫社長が話題になったが、今回のように進んでコネクションを作りに動いたあの社長さんに見習わなくてはと思った。その為には、恥ずかしがっている暇などないし、少し図々しい位になって、心を開いて話をしに行けるマインドが必要だなと思った。

 

 今回、北村さんの講演を通して、幾つかのブランドの成功事例をお聞きしたが、「これをすれば成功する」といった絶対の法則というのはなくて、どのブランドも置かれていた状況や起した行動もバラバラであった。しかし、どのブランドやメーカーも置かれた状況でとにかく考え抜き、変化にチャレンジしたことは確かだった。現在どの業界のどの規模の会社にも、ブランドを構築し成功するチャンスはあるはずだ。あとは考え抜き、チャレンジすることが大切だ。